東京地区から第35回交流セミナー報告です

東京経和会では同窓の起業家 倉片 稜 氏 をお招きしました


 東京地区経和会(会長:三野耕司、昭和54年卒)では、2月4日、学士会館において第35回交流セミナーを開催しました。講師には、日本で働く外国人の就業や生活をサポートするKUROFUNE株式会社を立ち上げた倉片稜氏(平成26年卒 https://kurofune-inc.com/)をお迎えしました。冬の交流セミナーに同窓の起業家を迎えるのは、2022年1月に続く2回目です。


 仙台など遠方から駆け付けた方々も含めて、会場にはほぼ定員一杯の約40名が参集。オンラインも合わせると約70名の参加と盛会でした。ご招待の在学生から昭和40年代の卒業生に至るまで、幅広く集う場となりました。



 三野会長の開会挨拶の後、今回特別に大学本部から参加された長坂徹也副学長(社会連携担当)より、東北大学を核としたスタートアップ企業育成の取り組みについて紹介がありました。今回の講演に繋がるものです。新しい企業を育てることも大学に求められる時代のようです。副学長から参加者に対して、経験を活かしてスタートアップ企業を手助けして欲しく、伴走型支援を行うための人材バンクにぜひ登録してもらいたいとの呼びかけがありました(ご関心のある方は東京地区経和会事務局 keiwakai.tky.kouhou@gmail.com までご連絡ください)。



 倉片氏には「日本の課題を解決する社会起業家とは何か?」と題して講演していただきました。東北大学経済学部を卒業後、外資系電機メーカーの営業担当として実績を上げていたとのことですが、「日本を選んで働きにくる外国人労働者にとって、現在の日本の労働環境・生活環境はまだまだ不十分。『鎖国状態』を変えていかないと日本に将来はないのでは?」という思いから起業を決意されたそうです。働きながらビジネスプランを練り上げて、2018年に今の会社を立ち上げるに至りました。



 紹介された事業には、外国人向けに無料で提供する、24時間相談サービスや母国語で注文できるオンライン薬局サービスがあります。いずれも外国人就業者の困りごとを解決するものです。一方企業向けには、これらにオンライン日本語学習や所得補償保険(外国人就労者は来日費用を借金で賄っていることが多く、病気やケガで就労できないとその返済に困るそうです)を組み合わせ、外国人従業員の福利厚生にも利用できるパッケージとして販売しているそうです。さらに外国人人材の企業への紹介と定着支援も行なっているそうですが、サービス内容は今後さらに拡大する計画とのことでした。


 KUROFUNE株式会社の社員は現在14名。その出身国は日本に限らず、台湾、ベトナム、フィリピン、インドネシア、中国、ネパールととても多彩。女性も多く活躍。目下、人材募集中とのことです。先行き、日本で成功したビジネスモデルを、外国人就業者の増加が見込まれる台湾、韓国にも広げて行くプランを語ってくれました。


 そうした倉片氏は、「営利企業が社会課題(社会のニーズ)に対応することで経済的価値と社会的価値をともに創造していく」というCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の考え方をベースに、「社会課題を解決するのはNPOや行政だけでない。スタートアップ企業も社会課題を解決することができる」という思いで事業に臨んでいるそうで す。それこそが、社会起業家と感じられました。ビジネスを通じてより良い社会を作っていこうという思いが、ストレートに伝わってくるお話でした。


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 その後のセッションは、小佐野美智子副会長(平成21年院卒)の司会によって進められました。

活発な質疑応答では、役に立ったスキルについて、「創業者は事業戦略と事業の先行きを考えるべき。自分にないスキルは得意な人を会社に迎えて補えば良い」と、切り口の違う発想でご回答いただきました。起業への不安については、「よくよくビジネスプランを 練ってみて『もうやるしかない』と思ったらやってみるしかない」と、決断のし方も語られました。仙台から参加の質問者が、「起業経験のある倉片さんには、仙台に拠点を移して起業家コミュニティーを作って欲しい」と述べる場面もあり、双方向での充実した時間となりました。起業を考えている方にとってはもちろん、そうでない方にとっても有益なヒントを数多くご披露いただいたと思います。



 続いて、講演内容をさらに掘り下げるためのコメンテーターによるコメントのコーナーです。まずは、昨年講師にお招きした高野秀敏氏(平成11年卒、株式会社キープレーヤーズ代表取締役 https://keyplayers.jp/)。バングラデシュでも事業を展開する高野氏は、「英語も通じない日本にわざわざ働きに来たいと思う外国人は少なくなっている」という現状を指摘した上で、「倉片氏のような起業家には日本の魅力を伝えてもらいたい」との期待を示しました。併せて参加者に対しては「グローバル化に対応した生活感を持ち、会社経営をすることが求められているのではないか。外国人の採用案件では倉片さんを応援してもらいたい」と、起業の先輩ならではのメッセージが投げかけられました。

 もう一人のコメンテーターは、大滝精一東北大学名誉教授(昭和50年卒、大学院大学至善館学術院長・教授)です。まず「社会起業」について、「世の中(特に若い人)の関心が強くなってきており、大企業内でもそうした観点からの事業構想作りが行われている」という解説がありました。さらに「不都合な真実に目を向ける」ことが大切だと指摘され、その解決に取り組むスタートアップ企業の難しさについて、①本当のお客さんが誰かをきちんと把握して課金しなくてはいけないこと(倉片氏の場合、外国人就業者には困りごとを解決する無料サービスを提供する一方、課金する顧客は外国人就業者を必要とする企業となっている)、②ビジネスモデル作りには社外のサポーターを活用すべきであること、③ときに障害となる国の制 度・法律を乗り越えなくてはいけないこと、の三点を挙げていただきました。広い視野と深い学識の滲み出るラップアップにより、充実のうちに交流セミナーは締めくくられました。



 講演会終了後は部屋を移動しての懇親会。「話す時にはマスクをして」という制限は付けられましたが、3年振りに立食懇談を復活できたのは嬉しいことでした。中一進氏(昭和 45年卒)の音頭による乾杯の後、あちこちで名刺交換や歓談の様子がみられました。在学生を含む様々な年次の方々にスピーチに立っていただき、和やかなうちに親密な時間が過ぎて行きました。職業も年齢差も超えて気兼ねなく話ができる同窓生との懇親の場には、やはり他では得難いものがあると思える夕べとなりました。



追伸

今回、初の試みとして、交流セミナー終了後にウェブによる参加者アンケートを実施しました。初回とあって何かと行き届かない点があったことはお詫び申し上げます。それでも回答のしやすさからか、短時間に多数の貴重なご意見を頂戴することができました。今後とも、東京地区経和会の行事が、より多くの方にとって有意義なものとなるよう工夫したいと思います。皆さまのご参加をお待ちしております。

竹澤秀樹(昭和61年卒) 2023年2月記

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